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次世代のGRに望むこと

次世代のデジタルカメラに望むこと

ですが、インパクトあるタイトルを付けたほうがいいかなと思ってGRを指名しました。いまのGRには「色んな人たちから求められているんだよ」「こういうことを望まれているよ」というフィードバック(一般的には電気信号による応答ですが、栄養という意味もあるみたいです)が必要なはずなので。

すこし話が遠回りします。

NASでデータを管理することにしたため、Synologyをテスト的に導入して、CP+でメーカーのプレゼンを見ました。

このNASにはPhoto Stationという画像管理ソフトが用意されていて、タグ付けもできます。まず画像解析エンジンが子どもの写真をピックアップしてくれるので、そこに「赤ちゃん」、さらには「ジョン」といったふうに、いくつでもタグ付けできて便利ですと紹介していました。

一眼レフで撮るような、花鳥風月やポートレート、スポーツなどは、この管理方法は抜群に効率的です。あとはレーティングとExif情報があれば、写真を検索するのに困ることはほとんどないと思います。

ただスナップはそうはいきません。

例えばこの写真に、どんなタグを付ければいいか?

#SanFrancisco で撮りました。トラムだけれど、まあ#Busでいいです。#X-T2と#XF56mmF1.2、さらには#Bokeh。

さてあとは?

撮ったときの感情を添えたいと思います。スナップ写真って、それを思い出すためのインデックスだから、つまり心の記憶に付けるタグです。タグにタグ付けするっておかしなことだけれど。

#sorrow それから #happy

これは相反する感情のはず。でもそうじゃない。

言語学をさらっと本で読むと、かなり最初のほうで「動物のウマがいて馬という名前が付けられたのではなく、馬という言葉がたくさんの四足歩行の動物のなかから馬を特定できるようにする、それによってヒトは馬を認識できるのだ」というふうに、言葉(言語)の役割について説明があります。

さらに馬(日)とHorse(英)とCheval(仏)では指し示すものに違いがあり、扱う言語によってその民族の世界の捉え方にまで違いが現れるという、「サピア=ウォーフの仮説」を知ります。最近だと映画「メッセージ」はこれをテーマにしていて、時間を超越した言語を用いるエイリアンとの接触により、その言語を翻訳しようとする言語学者が未来の出来事を予見するようになるという印象的な場面がありました。

写真を撮るということは、新しい言葉を創造しようとしているんだと、あるときから強く思うようになりました。それもシャッターごとに。

たまたまTEDを見ていて、新しい言葉をつくって本にまとめようとしている人の存在を知りました。ジョン・ケーニックさんで、そのタイトルが「the dictionary of Obscura Sorrows」というのは単なる偶然ではないと思います。そう、カメラ・オブスキュラのオブスキュラ。 
彼のプレゼンの冒頭で、例として「ドイツ語にジールシュマーツ(zielschmerz)という言葉があり、欲しいものを手に入れることに対する怖れなのだ」と紹介します。これは彼の造語です。いかにもドイツ人にありそうな感情。欲しいものを手に入れるのに、そこに怖れを感じるなんて。

でも喜びと悲しみは共存する。それを示す言葉はない。彼はそれをみんなで作ってまとめようとしています。言葉は強いコードなので決め事が必要です。デコードできないと意味を成さないから。

でも写真なら個人の権限だけでそれができます。しかもシャッターごとに。

リコーのコンテストの審査員をやったとき、作品の多くはGRかCXシリーズ、あとはGXRで撮られたものもありましたが、そのほとんどはタグを付けて整理できるような写真ではなかったです。一眼レフを使ってがんがん作品を撮ろうとするような人たちにとって、タグとレーティングは効率的な写真整理の方法です。

でもGRユーザーが大切にしているもの、写真に残したいと思っているものって、そういうことじゃないんだと実感しました。GRで撮りたいのはむしろ「タグで管理できないようなもの」だと僕は思います。

いま自分の心に湧いた感情に、名前をつけることができないから、言葉ではなく写真を残そうとする。子どもが泣いているのを見て、その涙に悲しみだけではない感情があるのを知り、でも親としてそこに喜びを感じている。そのまなざしに相応しい題名があるはずがない。ましてやタグで管理できるわけがない。

新しいGRが出るなら、撮ったあとの写真がどう扱われていくかについて、何か提案があればと願っています。GRは、性能以前に、まずは写真とヒトとの関わりを考えてきたから。

Bluetoothを使ってスマホと連動させ、そちらから撮った写真にタグが付けられて、そのときタッチセンサーに触れると、手の湿り具合や脈拍から撮影者の感情を読み取って、どれくらい焦って撮ったかを加速度センサーが読み取り、位置情報と撮影データと、それらを独自のアルゴリズムで演算してタグ化してくれる、とか。

まるで言語の自動生成システムみたいな。シュルレアリストがやろうとしたことですね。そこまでいくと次次世代くらいかもしれないけれど、テクノロジーをつかってカメラと使い手が会話できるようになるなら歓迎します。

撮った写真のデータが大きく膨大になっていくなかで、それを撮影者と、その人の関る世界のなかで、シェアするための美しいかたちを見てみたいです。

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