ファンミーティング
初めて彼に会ったのは、あるカメラマンの写真展の会場だった。そのカメラマンに対して僕はたくさんの質問をした。どんな現像液を使っているかとか、印画紙は何号なのかとか。暗室作業に迷いがあって、少しでもヒントを聞き出せたらと思っていたのだ。
会場を出ると、「何を聞いても無駄だよ」と声をかけてくる男がいた。僕と同じ年くらいで首からライカを提げている。それが彼だった。
「あの人は自分で現像していないさ」
「自分で現像していないってどういうこと?」
「いまどきプロのカメラマンだからといって、みんなが自分で現像しているわけじゃないよ」
「そうなの?」と僕は肩を落とした。「知りたいことがあったのにな」
彼の口元がゆるんだ。「トライXをD-76で、希釈は1:1か、もう少し薄いかもね。印画紙はオリエンタルのG-3だろうな」
「ずいぶん詳しいんだね」
「簡単なことさ」と彼が言った。
もう少し話が聞きたいな、と僕は思った。そして彼を誘って近くの喫茶店に入った。
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『ライカとモノクロの日々』に収録されている「いつになっても超えられない」の冒頭の部分です。
いまみたいにインターネットがなかったし、ということはSNSもなかったので、とにかく写真仲間のネットワークを広げるのが大変な時代でした。
それでも一人に知り合うと、その友達を紹介してくれたりして、しかもそれぞれが強い個性を持っていて、アドレス帳にひとつ名前が加わると、ドラクエのアイテムが増えていくような喜びと心強さがありました。
この秋に、ニコンとフジがオフィシャルのファンミーティングを開きます。ほぼ同じ時期になったのは単なる偶然なのか、カメラ業界の流れを象徴しているのか。
ニコンは長い歴史があって、それだけ層が厚いはずですし、歴史を売り物のひとつにすることもできます。フジも写真の歴史は長いけれど、Xとしたら6年しかないので、ずいぶんとそれぞれの雰囲気は違うんだろうと思います。
ぼくはずっと音楽を好きで聴いていたから、ライブ会場がファンミーティングみたいになっている状況についてはよくわかります。ヴィジュアル系アーティストみたいに、「自分の周りにはファンがいなくて寂しいけれど、会場に行けばみんなが仲間」というような場合、開演前にネームカードを交換したりして楽しそうにしている様子を見ることもあります。いつからのファンです? えつ、あの曲が好きなんですか、私もです、みたいな。
カメラのファンミーティングって、ファン同士の交流の場になるんでしょうか? ネームカード作って持って交換しあったりするのかな。裏に所有機材のリストがあったり、肩書きのところに”ハイアマチュア・フォトグラファー”と書いてあったりしたら、なんかいやだけど。
ブレット・イーストン・エリスの「アメリカン・サイコ」で、名刺交換の有名な場面があります。紙質やフォント、文字色などを見定めながら、勝った、負けた、みたいな心の声がずっと葛藤し続けている。これを読むと、全てはコードなんだと思えます。
ファンミーティングで、あったらいいなと思うサプライズ。
The XX(バンド名。ダブルエックスじゃなく、エックスエックスと読む)の生演奏・・・は無理だろうから、「Intro」(曲目)の2時間ループ(YouTubeにある)が大音量で流れている、とか。
胸に”X”とだけプリントされたノベルティTシャツのプレゼントや、X-age(マイレージみたいに、Xを買うとポイントが貯まるシステム)カードの贈呈は、本当にあるといいな。
あと個人的に、画像設計チームによる「2017コレクション」と称したオススメの設定を紹介するコーナーと、歴代Xによるファッションショーが見たい。
あ、でも、それ僕の役割かな。